Opinion

「アメリカの対キューバ経済封鎖とキューバの主権を考える会」の会員による意見表明、情報発信のページです。

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▼CONTENTS

【声 明】

アメリカの対キューバ経済封鎖とキューバの主権を考える有志の会声明(2024年3月28日)

 

【国際署名】

キューバのテロ支援国家リストからの除外を求める国際署名

 

【緊急声明】

アメリカ政府は、キューバへの経済封鎖を止め、主権を尊重して、

11月15日の違法デモへの支持を直ちに止めるよう、再度要求します。

 

Opinion04 オンライン会議「我らがアメリカと米州首脳会議」パネリスト発言録

「第9回米州首脳会議、米国の恣意的招待に大挙反発したラテンアメリカ・カリブ海諸国」新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

ミゲル・アンヘル・ラミレス駐日キューバ大使の発言

ナタリア・サラサール駐日ボリビア臨時代理大使の発言

セイコー・イシカワ駐日ベネズエラ大使の発言

 

Opinion03 茶番に終わったアルチピエラゴの違法デモ通告 新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

 

Opinion02 【増補版】キューバ、11月15日のデモに勝負をかける反政府勢力 新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

 

Opinion01   キューバの「反政府デモ」は「作られたデモ」スマホ時代の米国の介入のかたち

後藤政子(神奈川大学名誉教授)


【声 明】

アメリカの対キューバ経済封鎖とキューバの主権を考える有志の会声明

〜キューバ東部で発生した “抗議行動” を受けて〜

3月17日、キューバの東部のサンティアゴ市、バヤモ市、カルデナス市などで、住民が、抗議行動を街頭で起こしました。サンティアゴ市では、100名以上の住民が、当局に現状についての説明や議論、不満に対する回答を求めて集まりました。これは、政府当局も認めているように、本年、経済状況がより困難になった中で、2~3週間前から続いた10数時間に上る長時間の停電、食料の不足、配給食料の遅延によるものでした。

 

ディアス=カネル大統領は、当日すぐさまXで、「党、国家、政府当局の姿勢は、常に平穏な雰囲気の中で、国民の要求に耳を傾け、対話し、状況を改善するために講じられている数々の措置を説明することである」と、住民の不満と要求をよく聞き、対話して取り組ことを表明しました。また、ベアトリス・サンチェス・ウルティア、共産党サンティアゴ県第一書記は、サンティアゴ市の住民の抗議行動の前で、火力発電、電力供給の状況、食糧配給の改善の施策について説明しました。

 

一方、同日、在キューバ米国大使館は、Xで「キューバ政府に、抗議者の人権を尊重し、キューバ国民の当然の必要に取り組むように要請する」と投稿しました。さらに、ブライアン・ニコルズ米国務次官補(西半球担当)は、「キューバ政府は、民主主義と法の支配を適用し、キューバ市民の権利を尊重しない限り、国民のニーズを満足させることはできないだろう」とXで主張しました。

 

キューバ政府が、国民との対話によって、自主的に問題を解決しようとしている時でしたので、同日、ディアス=カネル大統領は、Xで、「日曜日にサンティアゴ・デ・クーバ市のある地区で起きた事件を受けて、この状況が、国内を不安定化させる目的で革命の敵に利用されている」と警告しました。さらに、18日キューバ外務省は、「米国政府と在キューバ大使館による、現在のキューバの内部問題に対する干渉と、誹謗中傷のメッセージを、断固、拒否すること、在キューバ米国大使館とその職員は、外交関係に関するウィーン条約の規範に従って行動する義務がある」ことを正式に伝えました。

 

なお、ハバナ市など西部の地域では、同様の抗議活動は行われませんでしたし、その後、電力事情の改善も進み、サンティアゴ市などでも、同様の抗議行動は、行われていません。

 

キューバの現在の経済困難は、新型コロナの影響、その後の世界経済の後退、国際紛争による価格の高騰、通貨政策の誤りなどもありますが、バイデン政権下で、キューバ経済を窒息させようと目論む経済封鎖の強化も大きく響いています。それは、65年前に、レスター・D・マロリイ米州担当国務次官補が、ロイ・ラボッタム国務次官に宛てた、次の書簡で示した政策を引き継ぐものです。

 

「反乱軍の指導者への支持を減らすただ一つ考えられる方法は、経済的に悪い状況と物質的困難を引き起こし、不満を通じた方法である。キューバの経済状況を弱体化させるためのあらゆる手段を緊急に講じなければならない」。

 

国際法に違反し、毎年国連総会で圧倒的多数で解除が決議されている、1962年以来の対キューバ経済封鎖と、事実に基づかない恣意的なテロ支援国家リストへのキューバの記載を、米国政府は、直ちに廃棄しなければなりません。

 

2024年3月28日

【国 際 署 名】

キューバのテロリスト支援国家リストからの除外を求める国際署名

表題、呼び掛け文を掲載いたします。ご趣旨に賛成であれば、個人または各団体で署名活動を行っていただきますようお願い申し上げます。 

【キューバは、存続し、そして抵抗する!】
【キューバは、存続し、そして抵抗する!】

今日キューバは、キューバ国民を服従させることだけを目的とした経済封鎖に直面しています。この封鎖は、テロ支援国家リストのような新しい手段を使って、その強度と範囲を拡大しようとしています。

 

◆世界への呼びかけ

私たちは、国際的な圧力と真の結果を知ることで、このような措置に終止符を打つことができると信じています。さらに私たちは、2022年と過去30年間と同様に、アメリカの対キューバ封鎖を拒否した国連総会の185カ国の決議に同意します。そこで私たちは、社会団体や指導者、民衆運動、信仰に基づく運動、芸術家、スポーツ選手、ジャーナリスト、平和団体、そしてすべての人々の人権と平等を擁護する人々に対し、私たちのキャンペーンに参加し、書簡に署名するよう世界的に呼びかけます。

 

◆テロ支援国家リストとは何か?

テロ支援国家リストとは、米国が国際テロ支援国家とみなす国々を非難するための米国政府の手段です。米国は、米国国防権限法第1754条(c)に基づき、これらの国が「国際テロ行為を繰り返し支援してきた」と主張しています。

 

現在リストアップされているのは、シリア(1979年〜現在)、キューバ(1982年〜2015年、2021年〜現在)、イラン(1984年〜現在)、北朝鮮(1988年〜2008年、2017年〜現在)。以前はリビア、イラク、南イエメン、スーダンも含まれていました。

 

このように、その時々の米国政府の恣意的な政策により、一国がテロ支援国家リストに組み入れられることがわかります。

 

◆なぜキューバがリストに加えられたのか?

キューバがテロ支援国家リストに初めて加えられたのは1982年、レーガン政権によるもので、その理由はキューバがアフリカと中央アメリカの民族解放闘争を支援していたからというものです。

 

2015年5月29日、キューバとの関係正常化の一環として、オバマ政権によってキューバはリストから除外されました。キューバの審査を行った国務省高官は、米国とキューバ政府の間に意見の相違があったにもかかわらず、キューバはテロ支援国家ではないという正確な結論を下しました。

 

トランプ政権は、2021年1月12日、キューバがコロンビア和平交渉に関与し、米国から元政治犯を亡命させていることを理由に、キューバを再びリストに追加しました。しかし、キューバはテロ支援ではなく、コロンビア政府とコロンビアのゲリラ組織ELNとの和平プロセスを促進することで和平を支援しているのです。キューバは最近、今年6月9日にELNとコロンビア政府間の歴史的な二国間停戦を仲介しました。

 

◆キューバをテロ支援国家リストに載せたのは誰の責任か?

どの国をテロ支援国家リストに載せるかは、アメリカの国務長官が決定します。バイデン政権は、民主党の前任者であるオバマ大統領がキューバをリストから外す決定をしたにもかかわらず、この指定を変更するためには何もしていません。しかし、バイデン大統領とその政権は、新たな見直しによってキューバをリストから外すことができるのです。

 

◆テロ支援国家リストに掲載されると、どのような影響があるのか?

テロ支援国家リストに掲載されると、米国とその支配下にある国際金融システムからの敵意と非難が深まります。このリストに掲載された国は、以下のような深刻かつ具体的な影響を受けます:

二重使用品目の輸出規制

金融その他の制限

「テロ支援国家」との貿易に関与する人物や国に対する制裁措置

キューバを訪問する旅行者に対するESTA(90日以下の短期商用・観光の目的で渡米しようとするビザ免除プログラム)免除の廃止

 

◆封鎖とテロ支援国家指定はキューバ人にどのような影響を与えるか?

テロ支援国家に指定されたことで、キューバは、国際的な銀行システムにアクセスすることが非常に難しくなりました。国際的な銀行は、テロ支援国家に指定されたことでキューバに課された制裁に違反することを恐れ、キューバに関連するあらゆる取引の処理を拒否しているからです。このため、キューバは、食料品、建設資材、医薬品などの基本的な必需品を輸入することが飛躍的に難しくなり、全国で品不足を招いています。

 

この指定は、キューバが人道支援を受ける能力にも大きな影響を与えています。ハリケーン「イアン」が2022年9月に西部のピナール・デル・リオ州を壊滅させた後、テロ支援国家に指定されたことで、破壊された家屋の再建や緊急の災害救援、停電の復旧を目的とした国際的な人道支援が完全に停止するか、大幅に減速しました。

 

アメリカの経済封鎖により、キューバ経済は、過去60年間で1,542億ドル(金換算で1兆3,000億円)の損害を被りました。バイデン政権の最初の14ヶ月間だけでも、封鎖は、キューバ経済に1日あたり1500万ドル(総額63億ドル)の損害を与えました。2021年8月から2022年2月にかけての損害額は、38億ドルで、COVID-19危機の影響からキューバが回復する過程で、経済成長を4.5%妨げることになりました。

 

キューバをテロ支援国家リストから除外し、キューバ経済封鎖を終わらせること!

米国政府は60年以上にわたり、キューバに対して敵対的な政策をとってきました。その明確な政治的意図は、残酷で非人道的な封鎖によってキューバ国民を孤立させることでした。パンデミックのさなか、トランプ政権は、243の新たな制裁によって経済封鎖を強化するだけでなく、キューバをテロ支援国家リストに加えることによって、キューバ経済にさらなる打撃を与えようとしました。この指定により、キューバは、国際的な銀行システムを利用した取引や、燃料、食料、建設資材、衛生用品、医薬品など、国際市場で必要な物資を入手することができなくなりました。

 

これらの理由から、私たちは、米国政府に対し、キューバをこのリストから除外することを緊急に要求します。現アメリカ大統領にお尋ねします: バイデン大統領、なぜこのトランプ時代の極悪非道な政策を支持し続けるのですか? キューバがテロ支援国家であると本当に信じているのですか?

 

現実には、キューバが支援してきたのは、国際連帯です。キューバは、パンデミックの間、世界50カ国以上に医療旅団を派遣し、何千人もの命を救いました。平和プロセスの支援に尽力し、武力紛争の平和的解決のために門戸を開きました。識字率を高める方法を世界に伝え、非識字と闘ってきました。パンデミックの間、自国民を守るためにCOVID-19に対する3種類のワクチンを製造したのもキューバです。歴史的に見ても、キューバは、世界の人々との連帯と国際友好を強化するために資源を使用してきました。

 

私たちは、国際的な圧力と真の結果を知ることで、こうした措置に終止符を打つことができると信じています。さらに私たちは、国連総会において、2022年および過去数年と同様にアメリカの対キューバ封鎖を拒否した185カ国に同意します。そこで私たちは、社会団体や指導者、民衆運動、信仰に基づく運動、芸術家、スポーツ選手、ジャーナリスト、平和団体、そしてすべての人々の人権と平等を擁護する人々に対し、この書簡に署名するよう世界的に呼びかけます。

 

私たちは、現米国政府がキューバをテロ支援国家リストから除外すること、そして国際社会全体が拒否している封鎖を無条件で撤廃することを要求するため、100万人以上の署名を達成したいと考えています。

 

経済封鎖もその他のいかなるキューバに対する措置も、キューバ国民の主権と自決権を打ち砕くことには成功しません。キューバの強さとヒューマニズムは、その社会的プロジェクトの成果の証であり、キューバは、引き続き、平和と正義のために戦う世界の人々にとって、ひとつ参考となるでしょう。

 

キューバは、孤立していません。世界はキューバ国民とともにあります!

 

キューバはイエス、封鎖はノー

 

【招集団体】

米州労働組合総連合

サンパウロ・フォーラム

国際人民会議

民主主義に賛成し新自由主義に反対する大陸デー

民主主義と新自由主義に反対する大陸デー

世界女性行進

ALBA運動

国際農民運動

キューバ連帯ラテンアメリカ・カリブ大陸ネットワーク

 

この呼びかけに賛同される方は、下記のURLからご賛同の意思をお送りください。

https://www.letcubalive.info/full-letter

 


【Opinion04】

オンライン会議「我らがアメリカと米州首脳会議」

2022年6月28日、駐日ボリビア、キューバ、ベネズエラ大使館は、「我らがアメリカ諸国民ボリーバル同盟=諸国民貿易協定(ALBA-TCP)」を代表して、オンライン会議「我らがアメリカと米州首脳会議」を開催しました。会議では、ラテンアメリカとカリブ海諸国の主な統合過程の状況、米国の覇権主義政策、参加国の政治・経済・社会制度の特徴について議論されました。以下にパネリストの発言を掲載いたします。

 

第9回米州首脳会議、米国の恣意的招待に大挙反発したラテンアメリカ・カリブ海諸国 新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

 

◆23カ国の首脳しか参加せず

6月8日~10日までロスアンゼルスで第9回米州首脳会議が開催されました。会議のホスト国である米国政府は、招待国に対し、圧力をかけたり、援助をちらつかせたり、様々な外交交渉を行いましたが、結局、北米と中南米の35カ国のうち、首脳が出席したのは23カ国(8カ国は首脳以外が出席)、20カ国のみが主要テーマである移民問題に関する共同宣言を採択するという限定的な会議となりました。

 

首脳の参加が限定的となったのは、バイデン政権の特異な外交政策が引き起こしたものでした。バイデン政権は、民主主義と専制主義の対決という独自の価値観に基づき、キューバ、ニカラグア、ベネズエラ三国を「人権をめぐる懸念や民主主義が欠如」していると決めつけ、ウクライナ危機の対応をめぐって米国の政策に追随しないこともあいまって、ホスト国として招待しませんでした。これは、前2回の首脳会議で定まったすべての国を招待するという慣行を無視するもので、覇権主義的な態度でした。このことに、地域の24カ国が反対の意向を表明しました。ロドリゲス・キューバ外相がいうように、この会議を招集した時点で、会議は失敗していたのでした。

 

◆10カ国の首脳が欠席

首脳が欠席した国は、招待されなかったキューバ、ニカラグア、ベネズエラの3カ国、3カ国排除に毅然と反対したメキシコ、ボリビア、ホンジュラス、セントビンセント・グレナディーンの4ヵ国、その他の理由による3カ国(エルサルバドルとグアテマラは、米国の一方的な制裁をめぐり対立中、ウルグアイはポウ大統領が新型コロナに感染)、合計10カ国でした。

 

米国の恣意的な運営に関する各国の態度を整理すると、①積極的に参加したのは、米国、カナダ、コスタリカ、パナマ、コロンビア、エクアドル、ペルー、パラグアイ、ウルグアイ、ブラジルの10ヵ国、②参加して意見を述べた国は、チリ、ドミニカ共和国の2ヵ国、③参加を拒否したのは、キューバ、ニカラグア、ベネズエラ、ボリビア、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの7ヵ国、④すべての国が招待されない場合、参加をしないと表明した国は、メキシコ、アルゼンチン、セントクリストファー・ネービス、アンティグア・バーブーダ、ドミニカ国、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン諸島、グレナダの8ヵ国、⑤すべての国の招待を希望した国は、ガイアナ、ジャマイカ、スリナム、トリニダード・トバゴ、ハイチ、バハマ、バルバドス、ベリーズの9ヵ国です。つまり、参加を拒否したり、問題があると感じている国は、24ヵ国、米州全体の69%に当たりました。

 

◆CARICOMなど共同体諸国、排除の原則を批判

中でも、カリブ共同体(CARICOM、カリブ海諸国15カ国)、我らがアメリカ・ボリーバル同盟=諸国民貿易協定(ALBA-TCP11カ国)」、中南米・カリブ海諸国共同体(CELAC、米加を除く米州33ヵ国、現議長国はアルゼンチン)の共同体加盟諸国は、米州各国の相互補完性、対等平等、各国の主権の尊重に基づく経済統合の理念を追求しており、米国の一極主義に反対する多極主義の原則を強調しました。

 

バイデン米大統領は、米州首脳会議の開幕式で、「民主主義国家が協働した時に発揮できる力を見せよう。世界中で民主主義が攻撃を受けている今こそ、再び団結し、民主主義はアメリカ諸国の特徴であり、アメリカ諸国の未来にとって不可欠な要素だという信念を新たにしようではないか」と訴えましたが、出席した首脳たちの反応は冷ややかなものでした。ベリーズのジョン・ブリセーニョ首相は、「キューバは、地域の国々にとって医療面で連帯を示しており、ベネズエラはカリブ海諸国のエネルギー安全保障の面で多くの貢献をしている。したがって、両国を抜きにすることは許しがたいことである」非難しました。CELACを代表してアルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領も、「ラテンアメリカは、団結しており、どの国も排除していない。キューバ、ベネズエラ、ニカラグアの排除は問題だ。CELAC加盟国は、多様性の中での団結を共有している。別な形の首脳会議であれば良かった」と原則的に批判しました。

 

◆共同宣言に20カ国しか署名せず

首脳会議は、10日「移民と保護に関するロサンゼルス宣言」を20カ国(ラテンアメリカ・カリブ海諸国からは18ヵ国のみ)が署名し、採択しました。共同宣言には、①移民の出身国などに対する支援を拡大するほか、②就労目的で定期的に行き来できるような機会を提供する、③人身売買を防ぐなど移民の人権尊重でも国際的に協力する、④国際機関などとの情報共有を拡大し、緊急事態に対応できる仕組みも整える、という4項目が盛り込まれました。

 

米国政府によると、2021年10月~22年4月にメキシコ国境地帯で拘束された人は129万5,900人と、前年同期に比べて72. 8%増加しています。そこで、米国政府は、2022~23年に中南米から2万人の難民を受け入れることを発表しました。ブリンケン米国務長官は、共同宣言について「移民問題に米州が責任を共有して取り組むのは初めてだ」と成果を強調しました。しかし、この宣言は、「アメリカ経済繁栄のためのパートナーシップ」という新しい経済連携、つまり2000年代にすでにとん挫したFTAA(米州自由貿易圏)的な新提案なのです。結局のところ、ラテンアメリカ諸国から米国へ、資源、安価な労働力、政治力、軍事力を大量に移すことです。古いレシピを新しい名前で再導入することで、米国は米州を政治的・経済的支配下に戻そうとしているのです。

 

◆OAS及びリマ・グループの支配力衰退

今回の米州首脳会議は、首脳会議の枠組みでもあった、中南米支配に利用してきた米州機構(OAS)の支配力が、衰退していることを示しました。6月のコロンビアの大統領選では、中道左派の政治連合組織「歴的協定」のペトロ氏が当選しました。10月のブラジル大統領選挙でも中道左派の労働党ルイス・イナシオ・ルーラ元大統領が、各種世論調査で右翼自由党のジャイール・ボルソナーロ現大統領に20ポイント近い大差で支持を集めています。4月にはニカラグア政府がOASからの脱退を表明しており、OASのメンバー33カ国の内、米国から自立した立場を取る国は、23カ国(70%)となります。また、米国が、反ベネズエラ活動に利用してきたリマ・グループも、15ヵ国から2022年6月現在には6カ国となり、年末にはカナダ、コスタリカ、グアテマラ、パナマ、パラグアイの5カ国となる見込みです。

 

◆今でも生きているマルティの言葉

中国は、2021年ラテンアメリカ全体でも、アメリカに次ぐ第2の貿易相手国になっていますし、巨大経済圏構想「一帯一路」には、この地域から22カ国が参加しています。本年4月の国連総会におけるロシアの人権理事会資格停止決議での投票において、反対、棄権、欠席したラテンアメリカ・カリブ海諸国は、13カ国に上りました。ロシアのウクライナ侵攻には反対するものの資格停止という排除の手段には、慎重である姿勢がここにはみられます。米州地域での中国、ロシアの影響力は、決して軽視できないものとなっています。米国が、モンロー主義に基づき、中南米諸国を裏庭と考え、国連における投票機械と考えた時代は終わっているのです。この明白なことを米国は未だに理解していないことを示した米州首脳会議でした。122年前、キューバの独立運動の指導者、ホセ・マルティは、論文「我らがアメリカ」でこのように述べています。

 

「我らがアメリカについて何も知らない強大このうえない隣国が軽率な行動に出ることが、我々にとって最大の危険なのである。・・・この国は恐らくは無知の故に、わがアメリカに触手を伸ばしてくるだろう。だが、我々のアメリカについて知るべきことを知れば、その時は、尊敬の念から考えを改めるであろう」。

 

マルティのこの言葉は今でも生きているのです。

◆ミゲル・アンヘル・ラミレス駐日キューバ大使の発言

 

ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、政治的、経済的、社会的に大きな変革の時を迎えています。新旧植民地主義による搾取の共通の歴史と、外国の利益に従属するモデルの押しつけは、国内の開発能力を制限し、我々の諸国民の利益のための地域協力と統合の真の機構を強化することを妨げてきました。この構図の中に、「われらがアメリカ」に対する米国の支配の歴史的な利益と、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の統合の正当な願望との間の根本的矛盾を見いだすことができます。

 

1990年代にワシントンがラテンアメリカ・カリブ海諸国に自らの意思を押しつけるために推進した西半球の機構である米州首脳会議、その第9回会議をめぐる出来事は、我々の大陸の双方の間で増大する和解しがたい矛盾を示すものでした。

 

この首脳会議の代わりに、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の人々と政府は、この広大で豊かな地理を構成しているアクターの必要性と多様性に応える、異なる統合の機構を必要としています。一方、キューバは、米国との統合を望んでいないことを繰り返し表明しています。なぜなら、私たちはシモン・ボリーバルやホセ・マルティから、それが我々の道ではないことを学んでいるからです。

 

第21回ALBA-TCP(われらがアメリカ諸国ボリバル同盟=諸国民貿易協定)首脳会議は、去る5月27日、ハバナにおいて、連帯、社会正義、協力、経済的補完性の原則に基づき、われらが諸国民の団結の手段としてのALBAを強化すること、ラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体(CELAC)が主導する真の地域統合を進めること、ラテンアメリカ・カリブ海の平和地帯宣言の規定を順守することについて、加盟国の決意を改めて確認しました。

 

そのALBA首脳会議の結果、われわれの諸国政府は、西半球の帝国主義との関係の変革を実現するための「われらがアメリカ」諸国の要求を支持し、覇権主義的な利益に従ってこの地域を分断しておくための、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の人々に対する帝国主義的支配の意図を糾弾しました。また、いわゆる米州首脳会議の独断的、思想的、政治的動機による排除にも反対しました。そのような排他的な会議は、地域的・世界的課題の解決に何ら寄与しないからです。

 

ロサンゼルスでの米州首脳会議の失敗は、私たちの地域の新しい政治的変化と対照的です。ベネズエラ、ニカラグア、キューバの独断的な排除に対するラテンアメリカ・カリブ海諸国の政府の反応は、帝国主義の支配の利益に対する反発が高まっていることを示しています。キューバの場合、アメリカ政府がいくつかの参加の仕方を提示してきましたが、我が国はそれを決然と拒否しました。

 

合計20の代表団が排除に反対し、11の代表団が米国の対キューバ封鎖を糾弾し、その他の声も我が国がテロ支援国家リストに独断的に含まれることに反対するものでした。これらの例は、米国がもはやラテンアメリカ・カリブ海諸国に対して自らの決定を押し付ける能力がないことを確認するものです。

 

米州首脳会議の失敗は、相互尊重と主権の平等を基礎として、「われらがアメリカ」の政府とアメリカ政府の間の対話と協力の機構を選択する必要性を示しました。例えば、権威を失墜した米州機構(OAS)は、ヤンキー植民地省とも呼ばれていますが、帝国主義の道具です。2019年にボリビアで起きたクーデターへの役割と、そこで行われた残虐行為への共犯性は、民衆が進める民主主義の発展に反対するその長い記録の中の最新の恥ずべき事例の一つに過ぎません。

 

他方、ALBAとCELACは統合の場であり、その成果は、相違はあっても補完と団結は可能であることを示しています。

 

多極化した世界の出現は現実のものとなっています。アメリカ政府は、他の地域内、地域外の関係者を前にして、わが大陸での影響力を失いつつあります。私たちの大陸の国民や政府は、個人的にも集団的にも、世界の他の国民や政府との関係を拡大しています。

 

米国が宣言したモンロー主義と単独行動主義の行使は、「われらがアメリカ」の国民と政府によって断固として拒否されました。 ラテンアメリカ・カリブ海諸国がここ数年、数ヶ月、数日の間に経験した変化は、いかなる種類の外的干渉や押しつけもなしに、団結と地域協力を強化することに新たな希望をもたらしています。その結果、多様性の中で、すべての国の団結を守ることが改めて必要になっています。

 

ラテンアメリカの英雄の中で最も普遍的で反帝国主義的なホセ・マルティが述べた予言的な言葉で締めくくりたいと思います。それは、「ラテンアメリカの慎重で良識ある人々の団結は、米国に常設されており、控訴できない法廷において、アメリカ大陸の共和国に対する強制的裁判を行うという米国の企図を打ち破った」というものです。

◆ナタリア・サラサール駐日ボリビア臨時代理大使の発言

 

周知のように、ALBA-TCPはラテンアメリカ・カリブの統合のための、歴史的で前例のないプラットフォームです。社会的側面を重視しており、人間を、統合の基礎であり中心であるとしています。連帯、相互補完性、正義、強力に基づき、ALBA加盟国がもつ力や強みを団結させ尊重することに重点を置いています。

 

この意味で、ALBA-TCPを貫く軸の一つは、諸人民の組織、社会的勢力の組織をつなげて強化し、統合をより確固たるものにすることに直接的な関係があります。これは、ALBA社会運動評議会を通じて行われます。

 

私たちの大陸にはAbya Yala(アブヤ・ヤラ)と呼ばれる独自のアイデンティティがあります。アブヤ・ヤラには団結、統合という意味合いがあります。アブヤ・ヤラの地には、わたしたちを分つ国境や旗はありませんでした。人々は同胞のため、コミュニティーのため、団結と調和のために働いていました。そのうちに、別の場所からよその人が来て、分断の種をまき、地域の解体が始まり、私たちの天然資源を組織的に略奪するようになりました。

 

数世紀にわたって、私たちのアブヤ・ヤラは解体され略奪され、元来、土地にあった思想はシステマチックに植民地思想への服従を強いられました。しかし私たちという火・灯りを消すことはできませんでした。私たちは今生きていて、これまでになく強く、生命の文化を回復する闘いの途上にあります。

 

だからこそ、ALBA-TCP、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)、南米諸国連合(UNASUR)といった統合の場は、「私たち自身の道を歩み始め、私たちの偉大がアブヤ・ヤラに戻る」ための場なのです。

 

この意味で、ALBA諸国の社会勢力をつなげるのが非常に重要なのだと、理解しなければなりません。ALBAは、社会勢力が国家の代表と同じレベルで参加する、唯一の場と言えるかもしれません。

 

ボリビアでは2019年に、11月主義(noviembrismo)の政治家グループが憲法に反した事実上の政権を打ち立てました。我が国の社会的勢力や国民に対する虐殺、拷問の時でした。社会的勢力と国民は真っ先に、民主主義を守るために街頭に出ました。2021年10月、さらなる国内不安定化を図る動きが警戒されていた頃、社会的勢力は改めてボリビアの民主主義を守るべく、先住民族の旗ウィパラを掲げて声を上げました。

 

これでは終わりません。ルイス・アルセ大統領がこのように言っています。「私たちには新しい世界秩序が必要だ。真に民主的で公平で、権力の均衡が取れていて、覇権がない秩序。民族自決の原則や内政不干渉の原則が完全に遵守される秩序。相互尊重に基づいた平和があり、政治的・経済的・社会的・文化的な多様性が認められる世界秩序が。」

 

内政干渉の明らかな例が、米州機構(OAS)でみられます。米州民主主義憲章に基づいて行動するのではなく、民主主義の原則に反した行動をしているのです。米州機構の内政干渉は、紛争の平和的解決に貢献するどころか、紛争を生み出しています。米州機構は時代遅れの実効のない組織となっており、私たちの諸国家の要請にも、マルチラテラリズムの原則にも応え得るものではありません。これに対し、統合のための機構・組織を他の場所で強化する必要が明らかになっています。

 

だからこそ、私たちALBA加盟国の人民は、共同体の力を目覚めさせ、私たちの主権、アイデンティティ、尊厳を守る必要があります。私たちは、世界の諸人民の統合の精神にならなくてはなりません。

 

私たちは帝国主義の攻撃に抵抗してきたし、これからも抵抗を続けます。労働者運動、先住民族の土着農民運動、我らがアメリカの社会勢力、人民の崇高な大義のために献身する男女と共に、私たちはしっかりと歩み続けます。そして、ラテンアメリカ・カリブの団結を固め、諸人民の良き生(Vivir Bien)に向けて前進するために力を合わせながら、この道を歩み続けようと呼びかけます。(仮訳)

◆セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使の発言

 

2019年に新型コロナのパンデミックが始まって以来、国際システムに大きな影響が及んでいます。一方でロシアによるウクライナでの特別軍事作戦や欧米による違法な制裁を通じた強要政策が、近年まれに見るような状況を生み出し、国際システムの抜本的変容につながる構造的な変化を引き起こしています。

地球上のどの場所も、新しい時代の到来を告げる怒涛の出来事と無関係ではいられません。ラテンアメリカ・カリブ地域も例外ではありません。

 

米州首脳会議は、世界の他の地域でも明らかになっているように、米国帝国主義の衰退を示しました。それだけでなく、ラテンアメリカ・カリブ地域におけるより大きな団結、自治、アイデンティティの出現を示しました。

米国の傲慢が拒否されたことは、ラテンアメリカ・カリブ地域が、国際システムの構造転換の必要性を示すような異なった精神を持っていることを証明するものです。

 

カリブ地域の諸人民は、その土地の尊厳と誇りをもって、先日のサミットにおいて新植民地主義の圧力への抵抗を示しました。

メキシコ、アルゼンチン、ペルー、チリ、ボリビア、そして最近はコロンビアも加わりましたが、これらの国々は、諸人民の大多数の声に加わりました。平和、正義、独立を求める諸人民の声です。さらに他の国も加わることでしょう。これら人民は、民族主義的、愛国主義的、民主主義的な感情を示し、人民の解放に向けて戦い続けるでしょう。

 

経済力や政治的意志により、ラテンアメリカ・カリブ地域は国際政治の舞台で重要な存在になっていくと思われます。競争より協力を重んじ、ラテンアメリカの組織から米国やその介入的外交政策を排除するような、統合や地域の団結のプロセスを通じて、存在感を拡大していくでしょう。

ラテンアメリカ・カリブ地域に、政治再編の追い風が吹いていることは間違いありません。

 

私たちの地域では、ALBA-TCPやペトロカリブが、国民の利益のための代替的な統合モデルの国際的な砦であり続けています。これらの組織は、主権、外部からの支配への拒否、域内の開発のための統合を主な目的としており、単に西半球における統合の代替手段であるだけでなく、最も活発でダイナミックな統合手段となっています。

 

ウゴ・チャベス大統領が南米諸国連合(Unasur)、ALBA-TCP、ペトロカリブ、ラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)を通じて提起したイニシアチブは、間違いなく、米国のいわゆる「パンアメリカン」主義の制度的支配を弱めました。そして、地理、経済、人口、地政学といった面でこれまでにない規模を持つ、代替的で独立した、権力の軸を築くと考えられます。

 

我らがアメリカの尊厳ある人民に対する犯罪的な封鎖や制裁にもかかわらず、キューバは新型コロナワクチンを開発し、ベネズエラでは社会・領土的な感染防止策、情報提供による統治策が採られ、地域の他の国々でも感染拡大抑制の成功例があります。こういった対策は、新型コロナ関連で残念な数字を記録している西欧と比して、また多くの国々がワクチンの買い占めに走り衛生管理面で効果の薄い対応をとっていた国際情勢において、評価されています。

 

ラテンアメリカ・カリブ地域にとっては、大国が世界の均衡を探求する未来において居場所と存在感を確保する唯一の方法が統合なのです。

ベネズエラにとって、この新たな国際情勢は、国際システムで主導的役割を回復するのに有利に働きます。ニコラス・マドゥーロ大統領は最近、ユーラシア、中東、アフリカの6か国を外遊しましたが、これは中国・ロシア相手を除き我が国が孤立しているという神話を覆す素晴らしい事例です。孤立しているどころか、強力な地政学的影響力を持つ友好国・貿易相手国が世界の様々な場所にあるのです。

 

他にも様々な地域・経済分野で主導的役割を果たすようになっている国々があります。このことはBRICs拡大の可能性、つまり地球規模の事柄が新しい方法で管理され運営される構造ができつつあることに表れており、実効ある多極化が実現しつつあるように見えます。我らがアメリカは、この新たな構造の一員でなくてはなりません。

 

だからこそ、私たちは来るべく世界に表玄関から入らねばなりませんし、入ることができます。ボリバルが、マルティが、フィデルが、チャベスが唱え、我らがアメリカの尊厳ある大統領らが提起しているラテンアメリカ・カリブ地域統合のプロジェクトの完遂において、私たちが主導的役割を果たす条件が整っています。今のような変化の波が続けば、2023年は、2005年のマル・デル・プラタから続く道に回帰する年になるでしょう。米国が推進する米州自由貿易圏(FTAA)構想が、私たち諸人民の尊厳を前に敗北した時の道に。

 

2006年5月、チャベス大統領がインタビューで語った言葉です。「ボリバル主義は、偉大な国、偉大な祖国の自覚を取り戻す。つまり、諸人民の魂から発する、深い、真実の統合の自覚を取り戻すのだ。」

 

その未来に向けて、私たちは闘い続けねばなりません。どんな帝国も私たちは止められません。輝かしい未来が私たちを待っています。

(大使館仮訳)

 


【Opinion03】

茶番に終わったアルチピエラゴの違法デモ通告

新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

◆はじめに

「歴史は二度繰り返される。最初は悲劇として、二番目は茶番として」と言われます。大々的に喧伝された11月15日のキューバのアルチピエラゴ・グループの「平和的」デモは、その日の最高責任者の海外逃亡によって、茶番劇に終わりました。

 

◆アルチピエラゴ・グループの背後にアメリカ政府の支持

アルチピエラゴ・グループは、8月半ばにフェイス・ブックで突然姿を現し、9月20日に全国8県で、「暴力反対、体制転換」をスローガンに「平和的」デモを11月20日に行うことを発表しました。しかし、キューバ政府が、11月20日を全国防衛の日と定めたことから、10月8日、デモ実施日を11月15日に変更しました。そして同グループは、キューバ地方行政府や司法機関の再三にわたるデモ禁止通告を無視し、アメリカ政府高官の異例の6度にわたる制裁、干渉発言、加えてアメリカ連邦議会の支持決議を背景にデモ実施の強硬姿勢を崩しませんでした。キューバ政府は、ブルーノ・ロドリゲス外相、ディアス=カネル大統領が、アメリカ政府から支援を受けた体制転換を求める違法デモは、絶対に認められないと非難し、反論しました。

 

◆アルチピエラゴ・グループ、違法デモ強行を発表、緊迫感高まる

同グループは、11月11日には、8県でのデモの詳細な実施要項を発表し、15日午後3時を期して白装束での街頭での行進、14日夜の鍋たたき、ベランダからの一斉拍手を呼びかけました。同グループは、世界の約120都市で支持者が集会を開催すると発表し、政府と対決し、衝突する機運が一挙に高まりました。

 

しかし、12日奇妙なことにアルチピエラゴ・グループのリーダーであるジュニア・ガルシアは、14日に一人で白い服に白いバラをもって、ハバナ市のキ・ホーテ公園から23番街通りを海岸通りまでを歩くと発表。しかし15日での一斉デモで先頭に立つことには触れませんでした。15日にデモに参加すれば逮捕は必至で、ジュニア以外には目立ったリーダーもいないので、組織の温存を図ったのかとも思われました。さらに14日には、ジュニアが居住するアパートの一階の出口に、近所の住民2~30人が集まり、ジュニアの行動を批判したり、歌ったりしました。アパートの屋上から特大のキューバ国旗がジュニアの家の一部の窓を覆うようにたらされる一方、ジュニアは、白い服を着て窓から白いバラを外に出し、政府への抗議の姿勢を示しました。しかし、集まった人々は、出口の外にいるだけで、ジュニアとの衝突はありませんでした。

 

14日アルチピエラゴ・グループは、ハバナ市及び8県で15日の午後および16日の午後8時に一斉の鍋たたきや、ベランダからの拍手を行うよう呼びかけましたが、それらは、まったく行われませんでした(21.11.15 Reuters)。この日ブリンケン米国務長官は、キューバ政府にデモを許可するよう主張しましたが、ロドリゲス外相は、キューバへの内政干渉と非難しました。

 

◆違法デモ行われず平穏な一日となる

翌15日、ハバナ市や、他の8県でも、政府は、軍隊と警察隊が動員され所定の位置で待機しましたが、一般の街頭には警官が所々に2名が警戒に立っているだけで、特に町に軍隊が溢れている光景ではありませんでした。また、革命支持の近所の住民が、アルチピエラゴ・グループの活動家の前に集まりましたが、両者の暴力的な衝突は起きませんでした。15日午後3時のデモ開始時刻になってもデモは起こらず、散発的に街頭に白装束で出る人もいましたが、それに賛同して激励を送る人も見られませんでした(21.11.15 Aljazeera)。

 

以下の写真は、15日午後4時のハバナ旧市街の状況ですが、デモの様子も、警官の異常な取り締まりも見られません。海外の通信社が報道したように、高らかに打ち上げられたデモの通告は、「しぼんで」しまったのでした。キューバ政府に批判的なCNNも「11月15日、抗議はなかった。抗議を許さなかったからか、あるいは彼らも敢えて抗議をしなかったからか。バイデンがいう『失敗国家』は見られなかった。完全に統制された国家であった」と報道したように、デモは見られませんでした。

旧ハバナ市街デルプラード通り

国会議事堂前

国会議事堂前

ハバナ市街を白い服を着て歩くアルチピエラゴ・グループ支持者。


 

◆仲間も政府も欺く劇作家ジュニアのショー

15日昼間、仲間が、ジュニア・ガルシアの家を訪ねると、義理の母が出て来て、ジュニアは、疲れて熟睡中だとの返事があったと仲間のフェイス・ブックで流されました。しかし、実はこれは劇作家のジュニアが義理の母と仕組んだ芝居で、その後のジュニアの証言では、すでに、15日早朝、スペインへの脱出のため、家を出て、脱出手引き者のハバナの家に隠れていたのです。ジュニアは、17日午後2時イベリア航空で妻のダヤナとマドリードに到着、18日記者会見を行います。饒舌なジュニアの話では、既に12日スペイン大使館にビザを申請していながら、14日には、一人で白バラを持って行進すると発表し、彼によれば「身の危険を感じたので、夕方スペインへの脱出を午後決意し」、15日早朝家を出たのでした。しかし、実際は、ジュニアは、8県で大きなデモが起きるとは思っておらず、政府当局のデモ禁止措置を引き出し、キューバ政府が表現の自由を認めない非民主的な政府であるとの印象を国際的にマス・メディアを通じて拡散することを主目的としており、12日以前にスペインへの脱出を決めていたのでしょう。

 

◆語らないスペインへの脱出方法の真相

16日ジュニアは、どのようにしてハバナ空港まで行き、無事飛行機に搭乗できたかという知られたくない点は、そのうち明らかにするといって、語っていません。ジュニアは、14日の単独行進の発表も、スペインへの脱出もアルチピエラゴ・グループの誰とも相談していないといいます(秘密行動のためには当然でしょうが)。リーダーが隠れるというこの体たらくでは、15日のデモが、実行されなかったのは当然でしょう。

 

しかし、ここにいろいろな疑問が出てきます。ジュニア・ガルシア・アギレーラという名前で飛行機の座席を予約すれば、当然イベリア職員の目を引き行動が漏れるおそれがあります。また破壊活動を起こそうとしたアルチピエラゴ・グループの国外脱出を当局は防ぐため空港のイミグレーションには厳重な通達がいっているはずで、それを潜り抜けるのは至難の業であると思われます。このことを考えれば、ジュニアは別名のパスポートで出国したことが考えられます。また、スペイン大使館での緊急のビザ手続きを行った人物はだれか、どうして、緊急ビザが取得できたか、ここに諜報組織が介入していたことが推察されます。

 

◆もともとデモの実行の条件はなかった

それでは、実際に、ジュニアが宣伝していたように8県で、あるいは世界の120カ国で大々的なデモを行う主体的・客観的な条件はあったのでしょうか。ジュニアによれば、アルチピエラゴ・グループは、3万人余の賛同者を集めており、その半数がキューバに居住しているとのことです(21.11.14 Reuters)。その数字をそのまま信じるとして、キューバには約15,000人住んでいることになります。キューバの選挙有権者数は約900万人ですから、支持者は0.17%となります。逆に見れば、国民の99.83%は、同グループに賛成していないのです。この0.17%が、無法なデモを強行しても体制の転換を図る力となることはできないことを、ジュニアは、知っていたのではないでしょうか。あるいはその背後で指図している人々は過大に反政府勢力を評価していたのではないでしょうか。

 

同グループは15日デモを17日まで延長すると発表しましたが、実際には、14~17日にかけて個人的にデモを行った人は、キューバ国内でも100人もいなかったのではないでしょうか。それは、当局の厳戒な取り締まりを恐れてというよりも、支持者が少なかったためでしょう。鍋たたきや一斉拍手は、当局に気づかれずに行われるにもかかわらず、実現されなかったことは、この判断を裏付けるものでしょう。世界の120の都市で行われると過大に発表された集会も、一都市平均では100人程度となりますが、発表された写真を見ても、実際には、マドリードで数十人、リスボンで30~40人、チューリッヒで数十人、マイアミで数十人、リオデジャネイロで20数人、サンチャゴ・デ・チーレで20数人、メキシコで数十人、パナマで5人と、全世界で200人程度だったと推計されます。

 

◆違法デモの目的は何であったか

ジュニアやその背後の人物の目的は、一般の人々を扇動し過激なデモを行い、できればキューバ政府当局の厳しい制圧を誘い出し、写真や動画でキューバ政府を、自由を弾圧する強権・独裁政府と国際世論に訴え、さらにできうればアメリカの人道的介入を引き出すことだったでしょう。あるいは、そうした最良のシナリオが実現しないまでも、当初のデモ通告、キューバ政府によるデモの禁止、アメリカ政府によるデモの支持の表明によって、自らに同調する国際メディアを通じて、国際社会にキューバが表現の自由を認めない人権問題を抱えた国と描き出し、国際的に孤立化を図るものだったでしょう。

 

◆ジュニアが語る驚くべきキューバ社会

ジュニアの饒舌な主張は、到着した17日映画監督のイアン・パドロンとの1時間余の単独インタビュー、翌18日の1時間余の共同記者会見、新聞記者フアン・マヌエル・カロとの20分間の独占インタビューで、示されています。それらはYou Tubeでも見れますが、次のようなものでした。

  • キューバの現政権は、独裁政権、どう猛な専制主義政権である。全体主義国家である。
  • キューバの現政権は、国民から乖離し、まったく国民の支持を受けていない。
  • キューバには、バチスタ政権打倒後まったく民主主義がない。表現の自由、人権が弾圧されている。
  • ジェンダーの面でも、キューバの現政権は女性を差別している。女性の反政府活動家のヨアニ・サンチェスを長い間差別している。キューバはマチスモ(男性優位)政権である。
  • キューバ政権は、無実の私をユダヤ人のように差別し、弾圧し、ナチスと同じで、ファシズム政権である。
  • キューバは、独占資本主義社会であり、国営企業も自営業も労働者を強度に搾取している。世界のどのような資本主義よりひどく搾取している。
  • キューバ政権は、一部が特権層を形成し、残りの大多数を支配している。封建的な支配である。
  • キューバ革命を支持しているロマン的な左翼の人々がいるが、現実を知らない未熟な幼稚な考えである。キューバ革命を支持する彼らは偽善者である。ベネズエラ、ニカラグア政権を支持する人々も偽善者である。
  • アメリカの輸出禁止措置(エンバーゴ)は、キューバ政府が、自分たちの失敗を隠すために役立っている(筆者注:ジュニアは封鎖=ブロケオという言葉を使わず、アメリカ政府と同じエンバーゴという言葉を使っており、封鎖に対する批判はない)。エンバーゴといってもキューバ国民が食べている鶏肉はアメリカから輸入しているものであり、4分の3の国民はエンバーゴを批判していない。
  • 医療の成果を賞賛するが、新型コロナ対策では頭痛を治す薬もなく、薬も全くなく、酸素もなく、悲惨なものである。
  • キューバ政権は、7月11日のデモでは、一人を殺害した。キューバの独裁政権は、チリのピノチェト独裁と同じものである。
  • 人々が15日にデモに行かなかったのは、デモに行くと当局にギロチンにかけられることを恐れたからである。
  • 海外に派遣されている医師は、悲惨な状況で働かされ、ひどく搾取されている。

 

このようなジュニアの議論を聞いた、右派の新聞記者カロも、「キューバは、独裁制だとは思っていたが、これほどひどいとは知らなかった」と述懐するほどの、ジュニアの現体制への憎しみに満ちた発言でした。

 

◆ジュニアの議論を支持する国民はごく少数

このような極端なキューバ政府、体制批判の全面的な批判に、さすがに大多数のキューバ国民は同意しないでしょう。キューバ国民は、2018年の国会議員選挙で、棄権+白票+無効+一部支持(1,447,419人)を加えると3,122,459人、34.98%が何らかの批判票を示しました。逆に65%が現体制を支持しているのは、アメリカや日本の現状を考えると驚くべき数字です。また、ジュニアは、現行憲法を認めないと批判していますが、2019年の憲法改正国民投票においては、棄権+反対+白票+無効=2,482,108人で、26.69%が反対しましたが、73.31%、国民の3分の2が賛成しているのです。そして、当然のことですが、国会議員選挙や国民投票で反対の態度を取った人々でも、上記のようなジュニアの一面的な主張に賛成するキューバ国民はごく少数の人々でしょう。ジュニアにとって、キューバ社会には居場所がないのです。

 

今、キューバ国民が望んでいることは、外国からの介入がない中で、キューバ人同士で活発な議論をして、経済改革を進め、インフレを抑制し、生産を増大し、市場での供給を増大し、日常生活を改善することであることは、明らかです。この点を考えれば、ジュニアの無法な行動が、この間にキューバ経済に与えたマイナスの影響は、算定されてはいませんが、少なからずの額に上ると思われます。最高責任者であるジュニアの無責任な逃亡により、反政府のWebでも、アルチピエラゴ・グループは、バラバラになったと報じています(21.11.18 Cybercuba)。ジュニアの行動が茶番に終わったのは、当然のことでした。

 

(2021年11月20日 新藤通弘)


【緊 急 声 明】

アメリカ政府は、キューバへの経済封鎖を止め、主権を尊重して、

11月15日の違法デモへの支持を直ちに止めるよう、再度要求します。

7月11日、長期にわたる新型コロナによる鬱屈、モノ不足にたいする不満、二重通貨の廃止の過程における高インフレ、頻発する停電に国民が苦しんでいる中、アメリカ政府に誘導されて全国数十か所で同時多発的に起こされた外国製デモが、最終的には短期間に収束したあと、キューバ国民の生活は平穏を取り戻していました。

 

ところが、10月12日、ハバナ市、ビジャクララ県、ラストゥナス県、オルギン県、シエンフエゴス県、グアンタナモ県、ピナルデルリオ県、カマグエイ県、アルテミサ県の地方政府に、アルチピエラゴ・グループという反政府活動グループにより、11月15日各県都で「平和デモ」と称してデモを実施する旨、申請が行われました。

 

アルチピエラゴ・グループは、アメリカ政府の機関であるUSAID(米国国際開発庁)、NED(全米民主主義基金)から資金援助を受けるだけでなく、社会的騒乱を引き起こす訓練も受けています。資金の流れは、証拠や証言で明らかとなっており、アメリカ政府の中枢部の関与は、否定できません。

 

キューバ政府当局は、旧ハバナ市街行政評議会議長が、10月12日、デモの申請は、憲法第56、45および4条に照らして、違法であり認められないと却下しました。この決定に対し、アルチピエラゴ・グループは、独自の憲法論を持ち出し、大統領及び国会議長あてにデモの許可を再要請し、全面的に対決する姿勢を示しました。

 

アメリカの議会も政府も、「平和的」と称するが実際は過激な暴力デモで政府と対決をめざす、「体制転換の代理人」であるアルチピエラゴ・グループへの明確な支持を表明し、キューバの体制転換を進めようとしていることは、明白です。このようなことは、近年見られなかったことです。

 

キューバ政府への不満や抗議はありうることです。しかし、それは、あくまでキューバの法律に従って、キューバ人同士で話し合って解決すべき問題です。そうした自主的な解決を、アメリカ政府の干渉は不可能にするものです。その意味で、私たちは、アメリカ政府にキューバへの経済制裁を止め、キューバの主権を尊重するよう、再度、強く求めるものです。

 

2021年11月12日

アメリカの対キューバ経済封鎖とキューバの主権を考える有志の会

世話人一同

 大西広(経済学、慶應義塾大学教授・京都大学名誉教授)

 勝俣誠(国際政治経済学、明治学院大学名誉教授)

 新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

 田中靖宏(ジャーナリスト、日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会、国際部長)

 田端広英(フリージャーナリスト)

 所康弘(国際政治経済学、明治大学教授)

 西谷修(思想史、立教大学名誉教授)

 山崎圭一(ラテンアメリカ研究、横浜国立大学大学院教授)

 吉原功(社会学・明治学院大学名誉教授) 

【経緯の解説】

7月11日、長期にわたる新型コロナによる鬱屈、モノ不足にたいする不満、二重通貨の廃止の過程における高インフレ、頻発する停電に国民が苦しんでいる中、アメリカ政府に誘導されて全国数十か所で同時多発的に起こされた外国製デモが、最終的には短期間に収束したあと、キューバ国民の生活は平穏を取り戻していました。

 

ところが、10月12日、ハバナ市、ビジャクララ県、ラストゥナス県、オルギン県、シエンフエゴス県、グアンタナモ県、ピナルデルリオ県、カマグエイ県、アルテミサ県の地方政府に、アルチピエラゴ・グループという反政府活動グループにより、11月15日各県都で「平和デモ」と称してデモを実施する旨、申請が行われました。

 

アルチピエラゴ・グループは、7月の失敗を経験に8月半ばに結成された反政府活動グループで、明らかにされた資料や証言によれば、アメリカ政府の機関であるUSAID(米国国際開発庁)、NED(全米民主主義基金)やCIAから訓練を、USAIDやNEDから資金援助を受け、アメリカにあるキューバ民主化移行評議会(CTD)やティモシ・スニィーガ・ブラウン、在キューバ・アメリカ大使館臨時代理大使、国務省キューバ担当高官、アレクサンダー・アグスティン・マルセイルなどの指導を受けているグループです。経歴と主張から、軍事介入を含めた体制転換をもくろむグループです。同グループのウエブサイトCubalexによれば、会員は3万人余で、半数はキューバの国外に住んでいます。このグループの行動を、アメリカ議会の反キューバ議員、マルコ・ルビオ、マリオ・ディアス=バラルト、マリア・エレーナ・サラサール、全米キューバ系アメリカ人財団(CANF)、2506旅団(キューバ侵攻傭兵集団)などが賛意を表明しています。

 

キューバ政府当局は、旧ハバナ市街行政評議会議長が、10月12日、デモの申請は、憲法第56、45および4条に照らして、違法であり認められないと却下しました。この決定に対し、アルチピエラゴ・グループは、独自の憲法論を持ち出し、大統領及び国会議長あてにデモの許可を再要請し、全面的に対決する姿勢を示しました。

 

すると、同日アメリカ国務省のプライス報道官は、「われわれはキューバの人権擁護者を支持し、逮捕者の釈放の要求を支持する。デモは表現の自由であり、平和的に集会する自由である」と、反政府デモへの支持を述べました。これに対し、キューバのブルーノ・ロドリゲス外相は、「キューバ国民は、平和、キューバの平穏、安定と調和を享受する権利を尊重するよう要請しているのである。ユーゴ、ウクライナ、ベネズエラ、ボリビア、リビア、シリア、ニカラグアで試みられたこれら反政府デモは、クーデターを引き起こし、軍事干渉を招こうと企画されたものである」と反論しました。すると16日アメリカ国務省は、「アメリカ政府は、キューバ国民が、平和に集会し、自らの意見を表明し、自らの政権と将来を自由に選択する権利を強く支持する」という異例の声明を発表しました。

 

10月21日、キューバの各県の検察局は、アルチピエラゴ・グループの各デモ申請者に「旧ハバナ市街行政評議会議長の決定を再確認したうえで、憲法第156条の検察庁の権限、憲法の順守を監視する権限に基づき、法律違反のデモの呼びかけをこれ以上行わないように」警告しました。しかし、それに対し、グループのリーダーのジュニア・ガルシアは、「11月15日のデモは必ず行う」と断言しました。

 

すると、22日、アメリカのフアン・ゴンサーレス西半球担当国務副次官補が、「もし、キューバ国民の基本的人権が侵されるか、15日の市民デモの推進者が起訴されるなら、アメリカはおそらく制裁をもってそれに答えるだろう。われわれは、キューバ国民が自らの道を希望する声を支持し、支援し、強化する」と脅迫的な干渉発言を行いました。これに対し、24日に開催されたキューバ共産党第2回中央委員会総会で、ディアス=カネル共産党第一書記は、問題の本質を次のように分析しました。

「キューバは、非正規戦争、ソフト・クーデターの対象となっている。アメリカ政府の声明の目的は、キューバ革命を打倒することである。われわれの深刻な物質的困難により国民が軟化し、ひざまずくことを敵は期待している。11月15日のデモは、わが国の政治体制の変更を推進する目的をもっており、アメリカによる攻撃、中傷、ウソ、脅迫という方策に呼応し、政治体制に反対し、混乱を起こし、資本主義を復活しようとするものである」と、厳しく反論しました。

 

引き続き、26日キューバ政府は、アルチピエラゴ・グループの指導者、ジュニア・ガルシア、マヌエル・クエスタ・モルアがUSAIDやNEDが開催した「移行期における軍隊の役割について」のセミナーに参加していたこと、両機関がキューバ政府の転覆のために、以下のように資金を供与してきたことを明らかにしました。

 

ポランコなどの報告によれば、次の資金が供与されました。

  • NEDは、2017年にアルゼンチンの右翼組織CADAL(ラテンアメリカ開放・開発センター)107,000ドル、2021年に100,000ドル。
  • USAIDは、昨年9月だけでも、キューバの攪乱計画のために、2023年までの計画に承認された1,800万ドルのうちから6,669,000ドル
  • トランプ政権時代、7,000万ドル以上が、キューバに対する破壊活動に
  • ラジオ・マルティおよびテレビ・マルティに1億ドル以上
  • USAIDは、キューバ民主主義幹部団(DDC)のオルランド・グティエレス・ボロナット617,500ドル
  • 反キューバメディア・キャンペーンのためのメディアADNデジタルに2,031,260ドルを、またCubanetに783,000ドル

こうした資金の流れからもアメリカ政府の中心部の関与は、否定できないのです。

 

11月に入り、メディアの分野でも、ワシントン・ポスト、CNN、ヌエボ・ヘラルドなどが、一斉に「平和的」デモへの支持を表明しています。またSNSによる政府批判、デモ支持の呼びかけが急増しています。

 

一方、バイデン政府は、6日、キューバへの家族送金は、キューバ軍の利益になる恐れがあるとして、送金の緩和を拒否しました。バイデン政権は、キューバを失敗国家とみなしており、年間30~40億ドル(外貨収入の30%程度)を制限し、外貨不足に悩むキューバ経済を一層締め上げる機会と考えています。11月15日は、キューバが自国産のワクチン接種が進み感染の拡大を制圧したことから、国際空路をほぼ全面的に開放し、コロナ禍で激減した外国人観光客の入国を大幅に認め、年間30億ドル程度の観光収入を回復し、経済回復の軌道に踏み出そうとする日です。しかし、アメリカ政府は、外貨収入の2本柱を妨害し、経済を一層悪化させ、国民の不満を高め、社会的爆発を引き起こさせる意図なのです。

 

11月5日になるとアメリカ議会は、上下両院で「基本的自由求める平和的デモを支持し、キューバ政府の弾圧を批判しキューバ市民の拘留者の即時釈放を要求する」決議を採択しました。また、同決議は、バイデン大統領には、「11月15日の平和的デモへの支持とキューバが自由な国となるよう希望すると再度表明すること、キューバ革命軍、キューバ内務省、キューバ革命警察に平和的デモ隊を逮捕しないように呼びかけること、国際社会にキューバの人権侵害を非難するアメリカ政府の立場に参加するよう呼びかけること」。

 

これに対し、翌日、キューバ国会は、アメリカ議会の決議は干渉主義で、キューバの主権を侵害するものとして厳しく反論しました。

 

7日になると、ジェイク・サリバン、バイデン政権安全保障担当補佐官が、CNNとのインタビューで、「状況が変わったので、キューバ政策も変わった。7月に重要な抗議があったが、政府は過酷にそれを弾圧し、それは今日まで続いている。体制転換のマニュアルから学び、アメリカ政府は、キューバと対決することにした」と述べ、選挙中に述べていた、オバマの道でもトランプの道でもない第三の道を否定し、新たなキューバ政府との対決を確認しました。

 

以上を見ると、アメリカの議会も政府も、「平和的」と称するが実際は過激な暴力デモで政府と対決をめざす、「体制転換の代理人」であるアルチピエラゴ・グループへの明確な支持を表明し、キューバの体制転換を進めようとしていることは、明白です。このようなことは、近年見られなかったことです。

 

アルチピエラゴ・グループは、11月15日のデモは「平和的」に行い、政治囚の釈放、基本的人権の承認のみならず、体制の転換を求めて全国各地で状況に合わせて強行すると表明しています。一方、キューバ政府は、外国に支援されたいかなるデモも認められないと、繰り返し警告しています。キューバ政府のこれまでの自主的な外交、社会政策、平穏な社会生活を支持する圧倒的多数の市民も、11月15日自分たちの態度を表明すると述べています。

 

キューバ政府への不満や抗議はありうることです。しかし、それは、あくまでキューバの法律に従って、キューバ人同士で話し合って解決すべき問題です。そうした自主的な解決を、アメリカ政府の干渉は不可能にするものです。その意味で、私たちは、アメリカ政府にキューバへの経済制裁を止め、キューバの主権を尊重するよう、再度、強く求めるものです。


【Opinion02】

【増補版】キューバ、11月15日のデモに勝負をかける反政府勢力

新藤通弘(ラテンアメリカ研究者)

11月10日更新】この問題で、10月26日に記事を紹介しましたが、その後いくつかの重要な証言が発表されましたので、それらを取り入れ、11月9日付けで増補版をアップしました。

◆反政府活動グループ、アルチピエラゴ・グループ、反政府デモを申請

10月12日、キューバ共産党中央機関紙「グランマ」が報道したように、ハバナ市、ビジャクララ県、ラストゥナス県、オルギン県、シエンフエゴス県、グアンタナモ県、ピナルデルリオ県、カマグエイ県、アルテミサ県の地方政府に、8月半ばに結成されたアルチピエラゴ・グループという反政府活動グループにより、11月15日に各県都でデモの申請が行われました。

 

これは、10月8日、アルチピエラゴ・グループが、11月20日に予定していたデモを、キューバ政府が17~20日に全国的防衛演習を決定したので、軍隊との衝突を避けるため、11月15日に実施することを決定したものです。同グループは、すでに9月20日に全国各地で、「暴力反対、体制変換」をスローガンに「平和的」デモを11月20日に行うことを計画していました。この呼びかけにはすぐさま9月24日アメリカにある反カストロ・キューバ組織、キューバ抵抗会議(ARC、2009年設立、キューバ内外の35の反キューバ政府組織を結集)が賛意を表明しました。

 

◆アルチピエラゴ・グループ出現の背景

このアルチピエラゴ・グループは、8月14日突然フェイス・ブックに「複数主義のキューバ、みんなのためのキューバ、みんなの利益のためのキューバ」を旗印に生まれたとして紹介されたフェイス・ブック組織です(現在同組織によると20,000人がメンバーで、ほとんどは海外に在住)。若い劇作家のジュニア・ガルシアを代表者とする組織で、9月20日〜27日には同グループは他の反政府組織とともに、8県の地方政府に11月20日に「暴力反対の平和デモ」を行うための許可を類似した文書で申請しました。この11月20日は、バイデン大統領の誕生日に当たり、象徴的にそれを祝うために選んだのでした。10月6日には、アメリカにある亡命キューバ人達が、このデモを支援するための「広範な社会戦線」(組織の詳細不明)を結成したと発表しました。7日、キューバ政府が、11月20日を全国防衛の日と定めましたので、前述のようにアルチピエラゴ・グループは、8日、デモの日を11月15日に変更しました。デモの呼びかけで、同グループは、昨年11月のサンイシドロの青年たちのハンスト、本年4月の文化省前の集会、7月11日の騒動を起こした囚人への支持を訴えました。しかし、これらの事件は、いずれも、アメリカからの発信のSNSによるキューバ人市民の攪乱行為で、アメリカ国務省傘下のUSAID(米国国際開発庁)から資金援助を受けていることが報告されています。

 

アルチピエラゴ・グループの中には、7月11日にキューバ・ラジオテレビ局(ICRT)をジーン・シャープの独裁政権打倒のマニュアルにある198の非暴力行動の方法の168番目の方法、「非暴力的急襲をかける」(ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』)を援用し、ICRTを攻撃しようとしたものもいます。つまり、ソフト・クーデターの理論で動いているのです。すると、10日にはキューバ抵抗会議(ARC)のオルランド・グティエレス議長もこのデモの支持キャンペーン開始を呼びかけました。

 

このデモ計画の推進者、ジュニア・ガルシアは、アルゼンチンの右翼組織CADAL(ラテンアメリカ開放・開発センター)やアメリカのカーネギー国際平和財団(最近まで現CIA長官のウィリアム・ジョセフ・バーンズが理事長)などのシンクタンクの訓練コースで養成されたもので、指導者の養成、政府機関との対決、動員方法、民主的移行における軍隊の役割の教授を受けています。

 

◆影の推進組織キューバ民主化移行評議会

11月のデモの呼びかけ人には、キューバ民主化移行評議会(CTD)も入っています。この組織は、今年7月半ばに設立されたもので、人権擁護を掲げ、反キューバ政府で一致するさまざまな組織が参加しています。会長は、反政府組織のキューバ祖国連合(2011設立)の会長、ホセ・ダニエル・フェレール、副会長にサンイシドロ運動の活動家、マヌエル・オテロ・アルカンタラ、パフォーマンス・アーチストのタニア・ブルゲーラ(いずれも昨年11月の文化省前のアメリカのSNSで動員された集会に参加しており、反政府運動の急先鋒)が名を連ねている組織です。全米民主主義基金(NED、国務省から資金を受ける)の資金を受け取っていることは公然と知られていることです。

 

さらに最近、このアルチピエラゴ・グループの審議委員会に過激派テロリストのオルランド・グティエレス・ボロナットも参加しました。USAIDは、キューバ民主主義幹部団(DDC、非暴力活動でキューバの民主化を推進する目的で1990年設立、会長はオルランド・グティエレス)が進める「キューバ観光の開発における真実暴露」計画に97,321ドルの資金を供給しています。昨年12月、彼はキューバ政府に反対するキューバ市民にキューバ軍が致命的な武力を行使するならば、キューバの社会主義政権を打倒するためにアメリカが軍事進攻をすることを支持すると述べています。

 

こうしたキューバ内外の反キューバ政府勢力のデモ推進の動きに対して、アメリカ議会の反キューバ議員、マルコ・ルビオ、マリオ・ディアス=バラルト、マリア・エレーナ・サラサール、全米キューバ系アメリカ人財団(CANF)、2506旅団(キューバ侵攻傭兵集団)などが賛意を表明しています。

 

◆旧ハバナ市街行政評議会議長、申請を却下

キューバ側は、デモの申請に対し、旧ハバナ市街行政評議会議長が次のように、デモを許可できない旨回答しました。

 

社会騒動を目的とするデモを実施する権利について提出された文書への回答

2021年10月12日

革命63周年の年

 

ジュニア・ガルシア・アギレラへ

 

 来るべき日にデモを行うという数人の署名者の決心を提出した文書に関し、以下、貴下に回答する:

 キューバ憲法第56条は、デモの権利の行使のための条件として、合法的基礎としては、合法性と『公共秩序の尊重と法律で定められた規則の尊重』を定めている。

 合法性に関しては、貴下がデモを正当化している理由の中には、合法性は認められない。このデモの推進者、公開された計画は、また攪乱組織あるいはアメリカ政府から資金を受け取っている人々は、キューバの政治体制を変革する明白な意図を有している。このことは、通告されたデモは、組織されたスキームで、キューバ各地で同時的に行われる内容となっており、その他の国でも試みられたようなキューバに対して『体制変革』を戦略の一部として挑発するものとなっている。

 さらに、デモが通告されるやいなや、デモはアメリカの国会議員、政治活動家、メディアの公然とした支持を得ている。これらのものは、キューバ国民に対決する行動に連携し、キューバで騒動を起こす目的をもち、その結果、軍事介入を主張しようとするものである。 

 わが国の憲法第45条は、『個人の権利の行使は、他人の権利、集団の安全、一般的安寧、公共秩序の尊重、憲法と法律により制限される』と記載している。憲法第4条においては、『本憲法が制定している社会主義制度は取り消すことはできない』と規定しており、それゆえ、この規定に違反するすべての行為は非合法である。 

 キューバ共和国憲法は、広範に議論され、国民投票において投票者の86.85%という圧倒的な多数の賛成によって承認された。これらの人々は、主権の行使として、かつ自由に、不可逆的社会主義制度を、また確立された政治的、社会的、経済的秩序を破壊しようとする試みに対しあらゆる手段を使って戦う権利を選択したのであった。

 上記の見地を考慮すれば、たとえ憲法上の権利が援用されるとしても、その権利は、他人の権利や、憲法そのものの本質的な保障、理念を無視して行使することはできない。したがって、デモは非合法な性格と決定される。

 

アレックス・アコスタ・シルバ

旧ハバナ市街行政評議会議長

 

◆アルチピエラゴ・グループ、独自の憲法論議を展開

アルチピエラゴ・グループは、この決定に対し、①憲法第10条は、国家機関は国民を尊重し、対応し、回答を与え、国民と密接な関係を維持する義務があると規定している、②憲法第56条の集会、デモ、結社の自由は絶対的なもので、第45条で他人の権利、集団の安全のために制限されるのは、矛盾している。③また、体制の変更を要求するのは憲法第4条に違反するというが、この条項は2002年の憲法改正で挿入されたもので、現行憲法はそれを引き継いだものであり、国民投票にかけられたことはない。したがってそれに制約されることはない。④行政評議会議長憲法第108条に基づき国会以外は、デモが違法であると判断する権限はない、⑤大統領及び国会議長あてにデモの許可を要請するよう呼びかける、と全面的に対決する姿勢を示しました。

 

これに対し、現行憲法の正当性については、キューバ政府側は、「憲法は、広範な国民の討議にかけられ、国民によって提起された修正も含めて、国民投票で90.15%の有権者が投票し、投票者の86.85%が賛成」したものであり、実質的な国民投票をクリアしたものであると反論しています。

 

◆バイデン政権、デモ計画を支持

すると、バイデン政権は、デモの実施を支持し、12日国務省のプライス報道官は、「7月に起きたことは、キューバの体制の行動から生じたものあった。キューバ国民の自由と尊厳、繁栄を求める願望から起きたものであった。アメリカはキューバ政府が平和な抗議をする人々、ジャーナリストを誤って逮捕し、打擲するのを見た。多くの一方的な逮捕があった。われわれはキューバの人権擁護者を支持し、逮捕者の釈放の要求を支持する。それは表現の自由であり、平和的に集会する自由である」と、反政府デモへの支持を明確に述べました。

 

これに対し、キューバ政府は、12日グランマ紙で長文の論説「道理は、われわれの盾である」で詳細に反論するとともに、ブルーノ・ロドリゲス外相は、「キューバ国民は、平和、キューバの平穏、安定と調和を享受する権利を尊重するよう要請しているのである。ユーゴ、ウクライナ、ベネズエラ、ボリビア、リビア、シリア、ニカラグアで試みられたこれら反政府デモは、クーデターを引き起こし、軍事干渉を招こうと組み立てられたものである。BBC、CNN、エル・ヌエボ・ヘラルド紙が、キューバにおける社会的騒擾を扇動しているが、それらはアメリカ政府の主導的役割を隠して報道している」と反論しました。

 

すると16日アメリカ国務省は、「アメリカ政府は、キューバ国民が、平和に集会し、自らの意見を表明し、自らの政権と将来を自由に選択する権利を強く支持する」という異例の声明を発表しました。露骨なキューバ国内問題への内政干渉でした。

 

◆各県のキューバ検察局、改めてデモ申請を却下

10月21日、 各県のキューバ検察局は、11月15日のアルチピエラゴ・グループの各デモ申請者を呼び、検察局は、憲法第156条の検察庁の権限、憲法の順守を監視する権限に基づき、法律違反のデモの呼びかけをこれ以上行わないように警告しました。これは、同グループが、憲法第108条に基づき国会以外は、デモが違法であると判断する権限はないという批判に憲法第156条をもって、正面から答えるものでした。しかし、グループのリーダーのジュニア・ガルシアは、ハバナ検察局を出ると、記者団に「11月15日のデモは必ず行う」と断言しました。

 

◆米玖両政府の対立激化

すると、22日、フアン・ゴンサーレス西半球担当国務副次官補が、「もし、キューバ国民の基本的人権が侵されるか、15日の市民デモの推進者が起訴されるなら、アメリカはおそらく制裁をもってそれに答えるだろう。われわれは、キューバ国民が自らの道を希望する声を支持し、支援し、強化する」と脅迫的な干渉発言を行い、アルチピエラゴ・グループのデモを扇動しました。

 

これに対し、ディアス=カネル大統領は、「帝国は、キューバにおけるその代理人たちの無罪を希望し、一層の強行手段でわれわれを脅迫している。なんという帝国の傲慢で、強引さ、挫折感であろうか。わが国民の断固とした回答を受け取るであろう」と反論しました。また、アマレジェ・ボウエ、キューバ共産党政治局員、キューバ女性連盟(FMC)会長は、「キューバ国民は、私たちの街頭の静けさ、子供たちの治安、勤勉な国民の幸福が乱されることを許さない。11月15日、街頭は緑色の制服の革命軍兵士、青色の制服の民兵、 ワインカラーの制服の小学生、白色のガウンの医療関係者で埋め尽くされるであろう」と国民の決意を表明しました。

 

また、23、24日に開催されたキューバ共産党第2回中央委員会総会で、ディアス=カネル共産党第一書記は、問題の本質を次のように分析しました。

「7月11日の事件の後、国はすぐさま静けさを取り戻した。その後常に外部からデモを呼びかけ、事件を起こし、治安を乱す状況を作り上げようとする挑発が行われたたが、これまで数カ月静けさは維持された。キューバは、非正規戦争、ソフト・クーデターの対象となっており、こうした侵略と対峙するために政治的思想的作業が緊要となっている。

在キューバ米大使館は、わが国の国内秩序を混乱させる行動において積極的な役割を果たしてきた。大使館の職員は反革命の中心人物と頻繁に会合をもち、指示を与え、奨励し、資材や資金を与えている。

在キューバ米大使館は、わが国の国内秩序を混乱させる行動において積極的な役割を果たしてきた。大使館の職員は反革命の中心人物と頻繁に会合をもち、指示を与え、奨励し、資材や資金を与えている。

アメリカ政府の声明の目的は、キューバ革命を打倒することである。われわれの深刻な物質的困難により国民が軟化し、ひざまずくことを敵は期待している。11月15日のデモは、わが国の政治体制の変更を推進する目的をもっており、アメリカ政府から資金援助を受けているものどもによる攻撃、中傷、ウソ、脅迫という方策と一致しており、政治体制に反対し、混乱を起こし、資本主義を復活しようとするものである」。

 

◆アメリカ政府の関与の事実が判明

10月26日、ロヘリオ・ポランコ、キューバ共産党書記局員が、ジュニアの経歴とアメリカ政府の支援の関係を詳細に報告しました。また、10月27日には、ジュニアが、CORU(統一革命組織統一委員会)の副責任者で数々の反キューバテロを行ったラモン・サウル・サンチェスとの電話会話が公開されました。そこでは、ラモンがデモへの支持を寄せ、ジュニアが支持に感謝しています。さらに11月1日には、25年間二重スパイとして反政府活動グループに潜入していたキューバ人医師カルロス・バスケス・ゴンサーレス(通称フェルナンド)の証言が発表されました。

 

これらの報告や証言によると、ジュニアは、2018年アルゼンチンで開催された「体制転換の時代と移行期におけるキューバ革命軍の役割」に参加しています。ジュニアは、当初いかなる外国勢力とも関係なく11月15日のデモを進めていると言っていましたが、ジュニアが2019年マドリードでNEDも関与する、「体制転換における軍隊の役割について」の授業を受けたことがバスケスによって証明されています。この会議には、キューバ人のルス・ディアミン、ラウラ・トレドも参加していました。この証言により、結局ジュニアも外国勢力との関係を認めざるをえませんでした。もっとも、ジュニアは、10月12日、テレスル通信社に、ティモシ・スニィーガ・ブラウン在キューバのアメリカ大使館臨時代理大使、国務省キューバ担当高官、アレクサンダー・アグスティン・マルセイルとも密接な関係を持っていることを認めています。

 

もうひとりのデモ推進者のマヌエル・クエスタ・モルアも、2014年からNEDと関係をもっており、2014年のCELAC首脳会議の際、ハバナやパナマで挑発活動を行っています。モルアも、2018年CADALのプロジェクト「キューバにおける体制転換の時期とキューバ革命軍(FAR)の新たな役割」に参加しました。この計画は、彼らに体制転換の展開に柔軟な考えを持つ革命軍の現在および以前のメンバーと連携をとる必要があることを教えました。

 

ポランコ報告によると、アメリカ政府は、キューバに対して、非正規戦争、ソフト・クーデターを進めています。この戦略は、アメリカ軍特殊部隊の訓練指示書2011年TC-1801とも関連があります。この文書は打倒すべき政府の予想される弱点を利用し、政府を国民から遠ざけさせ、中立的な立場の市民を反政府側に押しやり、破壊活動に向けさせ、もしこうしたことが望ましい戦略的成果を上げないときには、反乱を醸成して武装闘争に訴えることを進めています。

 

カルロス・バスケスの証言に対して、ジュニアは、まともな反論ができないでおり、ただマドリートで3日間会ったが、スパイをするとは何事だと批判しているだけです。

 

ポランコなどの報告によれば、NEDは、2017年にCADALに107,000ドル、2021年に100,000ドル、キューバの民主化の推進プロジェクトに供与しています。昨年9月だけでも、USAIDは、キューバの反乱計画のために、2023年までの計画に承認された1,800万ドルのうちから6,669,000ドルを供与しています。また、トランプ政権時代、7,000万ドル以上が、キューバに対する破壊活動に使われました。ラジオ・マルティおよびテレビ・マルティが行っているキューバ向け放送事務所に1億ドル以上供与されています。USAIDの資金の主要な受取人の中にオルランド・グティエレス・ボロナットが率いるキューバ民主主義幹部団(DDC)がおり、彼は617,500ドル受け取っています。また反キューバメディア・キャンペーンのために設立されたメディアとして、ADNデジタルがあり、ADNは2,031,260ドルを、またCubanetがあり783,000ドル受け取っています。資金の流れからもアメリカ政府の関与は、明白なのです。

 

◆アメリカ議会、アメリカ政府一体となってキューバ攻撃

11月5日になるとアメリカ議会は、上下両院で「基本的自由求める平和的デモを支持し、キューバ政府の弾圧を批判しキューバ市民の拘留者の即時釈放を要求する」決議を採択しました。同決議は、つぎのように主張しています。

  • キューバ政府は、11月15日の平和的デモの申請を却下しているが、許可するように要求し、すべての権利の尊重、政治囚の釈放を求める。
  • バイデン大統領には、11月15日の平和的デモの支持とキューバが自由な国となるよう希望すると再度表明してほしい。
  • キューバ政府の平和的抗議デモへの弾圧に強く抗議する。
  • キューバ革命軍、キューバ内務省、キューバ革命警察に平和的デモ隊を逮捕しないように呼びかける。
  • キューバ軍の利益とならない形でのドル送金を許可する。
  • 国際社会にキューバの人権侵害を非難するアメリカ政府の立場に参加するよう呼びかける。

 

翌日、キューバ国会は、アメリカ議会の決議は干渉主義で、キューバの主権を侵害するものとして厳しく非難しました。

 

11月に入り、メディアの分野でも、ワシントン・ポスト、CNN、ヌエボ・ヘラルドなどが、一斉に「平和的」デモへの支持を表明しています。またSNSによる政府批判、デモ支持の呼びかけが急増しています。

 

一方、バイデン政府は、6日、キューバへの家族送金は、キューバ軍の利益になる恐れがあるとして、送金の緩和を拒否しました。年間30~40億ドル(外貨収入の30%程度)を制限し、外貨不足に悩むキューバ経済を一層締め上げ、国民の不満を高め、社会的爆発を引き起こさせる意図は明白です。

 

7日なると、ジェイク・サリバン、バイデン政権安全保障担当補佐官が、CNNとのインタビューで、「状況が変わったので、キューバ政策も変わった。7月に重要な抗議があったが、政府は過酷にそれを弾圧し、それは今日まで続いている。体制転換のマニュアルから学び、アメリカ政府は、キューバと対決することにした」と述べ、選挙中に述べていた、オバマの道でもトランプの道でもない第三の道を否定し、新たなキューバ政府との対決を確認しました。

 

以上を見ると、アメリカの議会も政府も、「平和的」と称するが実際は過激な暴力デモで政府と対決をめざす、「体制転換の代理人」であるアルチピエラゴ・グループへの明確な支持を表明し、キューバの体制転換を進めようとしていることは、明白です。このようなことは、近年見られなかったことです。

 

◆今回の事態の深刻さ

今回の事態は、次の点で、7月の事件とは違った、実に緊迫した状況を生み出しています。

  1. 7月の事件のように、短期間に突発的に起こされたデモ計画ではないこと。
  2. 7月半ばより長期間にわたり、各組織が綿密に計画が練られていること。
  3. 7月の事件のような個人あるいはグループにSNSによるハッシュタグで動員されたものでなく、ジュニア・ガルシアを代表とするアルチピエラゴ・グループを表面の中心組織としつつ、キューバ民主化移行評議会(CTD)、キューバ抵抗会議(ARC)、キューバ祖国連合(UNPACU)、キューバ民主主義幹部団(DDC)、サンイシドロ運動(MSI)、全米キューバ系アメリカ人財団(CANF)、2506旅団のような、アメリカに基盤を置くいろいろな反キューバ組織が協力していること。
  4. 7月の事件のように、ハッシュタグで無組織に集まった群衆の中の中心グループ叫んだ「自由を、自由を」、「祖国と命」、「外貨ショップ店打倒」、「独裁者打倒」とは違い、要求は、前もって周到に検討され、集会、デモの自由、表現の自由を要求するだけでなく、憲法そのものに異議を唱えるものとなっていること。
  5. 戦術は明らかで、11月15日のデモの公式な申請⇒それに対するキューバ政府の拒絶⇒国際世論への拒絶の不当性の訴え⇒国際世論によるキューバ政府の人権問題の批判⇒デモの強行、一部の暴力的行動⇒キューバ当局の厳しい取り締まり⇒キューバ政府による人権弾圧とのメディア批判⇒人道的軍事介入を求める世論の喚起というもの

以上のことから、もはや、問題は、キューバ政府と、反政府アルチピエラゴ・グループや種々の反政府組織との対立が主軸ではなく、バイデン政権のキューバの主権を無視した、キューバの政治体制の変更を迫る敵対的な内政干渉の言動とキューバ政府の対立となっているのです。キューバの国内問題は、外国からのいかなる干渉もなく、キューバ人により、キューバの中で議論し、解決することが、問題の解決であることは明白です。

 

(2021年11月9日 新藤通弘)


【Opinion01】

キューバの「反政府デモ」は「作られたデモ」

スマホ時代の米国の介入のかたち

後藤政子(神奈川大学名誉教授)

◆それはツイッターから始まった

 7月11日、キューバで革命後初めて、生活苦にあえぐ市民の反政府デモが行われたことが新聞やテレビで伝えられた。一体、何が起きているのだろう。グランマ紙など現地の新聞の電子版を開いてみると、メディアの報道とは異なる実態が見えてきた。

 

それは「作られたデモ」、つまり、米国のSNS戦略が効を奏したものであった。

 

キューバ国内では数週間前から、SOSCubaというハッシュタグがついたツイッターが急速に広がっていた。11日、「サン・アントニオ・デ・ロス・バニョス 指令、動員へ」というメッセージが届いた。街でデモが起きているという噂が飛び交った。初めは小さなデモだったが、次第に膨張し、「祖国と命」、「独裁を倒せ」というスローガンも聞こえた。

 

デモはハバナ州の西隣のアルテミサ州サン・アントニオ・デ・ロス・バニョスで始まり、ハバナ、カルデナス、サンティアゴ・デ・クーバ、シエンフエゴスなどで起きた。参加者は全国で数千人。ハバナのマレコン通りでは米国旗を掲げる者、火炎瓶を手にする者、警察官を襲ったり、車を転覆させたり、商店を略奪したりする者があった。マチェーテをもった一人のデモ参加者が4人の警察官によって取り押さえられ、商店の略奪者数人が逮捕者された。何事かと駆けつけた多くの市民が周囲を取り巻いていたが、一般市民とデモ隊の衝突はなかった。翌12日にはハバナ州東南のマヤベケ州グイネラで反社会グループの一団が警察署を襲撃しようとして警官に阻止され、住宅や電線を破壊したり、コンテナに火をつけたりした。襲撃者グループの一人が死亡し、警官を含む数人が負傷した。

 

米国のキューバに対する経済封鎖は革命直後から60年以上続いている。制裁の目的は経済を悪化させて国民の不満を高め、内部から政権を崩壊させることにある。これは制裁法の「1996年キューバの自由と民主主義連帯法=ヘルムズ・バートン法」に明記されている。見逃してならないのは、そのために「人心を変える」政策に重点が置かれ、同法ではNGOや国際人権団体などへ働きかけることも規定されていることである。最近はスマホの時代でもあり、ツイッターやユーチューブなどソーシャルメディアが活用されるようになった。因みにキューバの携帯電話の利用者は660万人以上、インターネットの接続者は440万人である(2020年末)。

 

ロドリゲス外相は12日のテレビ番組で、スペイン人アナリストのフリアン・マシアス・トバルの調査をもとに、この米国の政策について明らかにしている。これはアルゼンチン人のアグスティン・アントネジ(極右団体「自由財団」メンバー)がラテンアメリカの中道左派政権などの追放に用いた手法に倣ったもので、SNSなどを使い、経済危機、政権の無策、汚職、人権侵害などを訴え、独裁政府に対して立ち上がるよう呼びかける。フェイクニュースや模造した映像も頻繁に用いられる。これにより、例えばボリビアでは反政府暴動が続き、初の先住民大統領のモラレスが右派勢力によるクーデタ―で追放された。

 

今回、キューバではまず、独裁下で苦しむキューバ人の支援を訴えるスペイン国旗のついたツイートがスペインで発信され、瞬く間に世界に広がった。botという1秒間に5回のリツイートを自動的に配信できる高度なアプリが用いられていた。次いでHT#SOSCubaというハッシュタグ付きのツイートが作成され、世界のアーティストに向けてキューバ国民への「人道援助と連帯」を訴えるキャンペーンが繰り広げられた。1,100以上の返信があったが、そのアカウントのほとんどは最近ないしは1年以内に作られたものであった。キューバ国内でも#SOSCubaというタグがついたアカウントのうち1,500以上が7月10日と11日に作成されていた。リツイートが世界で50万を超えたその時にデモが起きた。

 

マイアミでは米国の軍事侵攻を求めるキャンぺーンが繰り広げられ、13日にはマイアミ市長がフォックス・ニュースとのインタビューでキューバへの軍事侵攻を主張した。これに先立つ6月15日にはフロリダ州政府がProActivo Miami Incorporationsという小さな企業にSOSCubaのハッシュタグの認定証を出している。同社はその日のうちにキャンペーン費用として州の資金を受け取った。ロドリゲス外相はこの認定書のコピーを7月12日のテレビ番組で示している。

 

11日にはまた、大統領府や外務省などの官庁、研究所、グランマ紙などのメディアのサイトがサイバー攻撃にさらされた。外務省では9時53分から10時23分までの間に1万件に及ぶアクセスが集中した。確認できたIPアドレスは34。ほとんどが米国のもので、他国から発信されたように装われていた。そのほかにイギリス、フランス、トルコ、オランダなどからのものがあった。

 

◆「反省すべきことは反省する」

 政府の対応は「キューバらしい」ものであった。

 

デモの報が伝えられると、ディアス・カネル大統領はすぐさま現場に駆けつけ、市民と話し合った。そのあとにテレビに出演して事態を国民に説明した。翌日の朝7時には閣僚らとともに数時間にわたり、事件の経緯、停電問題、経済状態、コロナ感染問題等々、キューバが直面する様々な問題について詳細に説明し、対応策を示した。2日後の14日にも円卓会議を行い、これもテレビで放映された。

 

とりわけキューバらしいのは、大統領が「反政府デモ」にはハバナの米国大使館に自由に出入りする「反革命家」だけではなく、一般市民も加わっていたことを明らかにしたことである。これらの市民は3つのグループに分けられるという。犯罪歴のある人々、生活に不満をもつ人々、学校にも行かず職にも就かない若者である。大統領は「これは経済悪化のために国民生活が苦しんでいることを反映したものであり、反省すべきことは反省しなければならない。生活に苦しむ人々への配慮に足りない面はなかったか」として、弱者に対する政策の検証と見直しを打ち出した。

 

確かに経済情勢は厳しい。トランプ政権下では243もの新たな措置がとられ、キューバは、貿易も含め、「何もできない」状態になった。昨年にはあらゆる手を尽くしてようやく人口呼吸器の輸入契約にこぎつけたが、入手先のスイス企業が米国企業に買収され、制裁法に抵触するとしてキャンセルになった。キューバに向かっていたベネズエラのタンカーが制裁の対象国であるとして拿捕され、積み荷の石油が米国内で売却されたこともあった。トランプ大統領は置き土産としてキューバをテロ支援国リストに加えてホワイトハウスを去っていったが、そのために海外からの資金調達はおろか、貿易の決済のためのドルの支払いも難しくなった。そこにコロナ禍が襲い、感染対策に必要な医薬品や人材、隔離施設等々が急増し、物資や資金の枯渇に拍車をかけた。状況の深刻さは1990年代のソ連解体による経済危機に匹敵するとも言われている。

 

Covid-19の初の感染者が確認されたのは昨年3月である。この時には広範な専門家の知見の結集、住民の政策決定への参加システム(対策の実効性を地域住民が検証し、その意見を政府の対策に反映させる)、地域に密着し、一人ひとりの住民の状態を熟知したファミリー・ドクター制度などが機能し、感染を抑止できた。しかし、12月初めに第2波が始まり、新規感染者数は1日6,000人を超えるようになった(7月13日)。3大感染地はマタンサス州、ハバナ州、サンティアゴ・デ・クーバ州である。

 

感染拡大の要因としてはデルタ株など変異株の拡大によるところが大きいが、感染者の急増に医師や看護師などの人材や医薬品の確保、隔離施設や病院のベッドの増加が追いつかない。PCR検査キッドが不足し、感染者の特定や隔離が遅れる。また、国民のコロナ疲れ、マスクの使用や蜜の回避に無関心な人々、職場の衛生対策の不備といった問題もある。

 

ワクチン開発はフィンライ研究所や遺伝子工学バイオテクノロジー研究所などで早くから進められ、5種が開発された。AbdalaとSoberana 02の効果はそれぞれ92,5%、91.2%である。接種は19歳以上の国民を対象に1日100人につき00.99人のペースで進んでおり、ハバナ州では7月末、全国では8月までに80%が終了するという。

 

接種終了まで持ちこたえるべく、政府は国民に意識向上を訴えているが、ワクチンや医薬品の開発や製造は資金や資材の入手にかかっている。変異株に有効な不織布のマスクや手洗い用の石鹸も十分ではない。住宅不足のため都市部では2世代、3世代家庭が多く、家の中も蜜状態である等々。ここにも制裁による物資不足が影を落としている。

 

「世界一厳しい」と言われる米国の制裁であるが、キューバの場合、最大の特徴は制裁が第3国にも及ぶことである。たとえば日本の銀行がキューバに送金すれば莫大な制裁金を課される。しかも制裁は企業や個人だけではなく政府にも及ぶ。途上国は米国や国際機関の援助が停止されることもあり得る。そのためキューバが貧しい諸国に派遣している医師団が追放されたりしている。

 

バイデン政権下でも対キューバ政策はまったく変わっていない。議会の承認がなくても行政権によって実施できる政策があるにもかかわらず、それもなされていない。バイデン大統領はまた、「反政府デモ」を「勇敢な行為」と称賛し、キューバ政府に国民の声に耳を傾けるよう求めた。キューバのロドリゲス外相は「経済悪化は米国の封鎖のためであり、反政府デモは米国がしかけたものである。冷笑的である」と評している。警察官を武器で襲ったり、公共施設を破壊したり放火したりしたデモ隊員が拘束されたことに対し、バイデン大統領は23日には人権侵害であるとして制裁を強化している。

 

経済封鎖解除の見通しが切り開かれないなか、政府は何とか自力で経済を回復するとして、輸入に大幅に依存する食料の自給化を基軸に据えた経済再生策を打ち出している。エネルギー不足については、ソ連解体で石油供給が完全にストップした反省から国内で石油開発が進められており、国産の石油と限られた備蓄で何とかこの夏を乗り切るという。とはいえ、食料生産の拡大に限っても、肥料や農薬の確保、流通部門の整備、さらには農場や工場の管理運営能力や労働意欲の向上など、課題は多い。

 

民主党のバイデン政権がなぜ対キューバ政策を変更しないのか。これは同政権をいかに評価するかという問題とも関わるが、関係改善を実現したオバマ政権下においてすら制裁は緩和されるどころか、激化していた。根底には、米国は「米国の限界」というものを乗り越えられるか、という問題が横たわっている。

 

一方、ソ連解体により国際的に完全に孤立した1990年代とは異なり、世界の状況は変化している。国連総会で制裁解除決議に反対する国が米国とイスラエルの二か国だけになってからすでに久しいが、なかでもEUがキューバとの関係改善に本格的に動きだしたことは大きい。ラテンアメリカでもメキシコのオブラドル政権、アルゼンチンのフェルナンド政権が成立するなど、この10年来、後退していた「米国離れ」が再生しつつある。両国政府は「反政府デモ」について米国を非難し、制裁解除を求めている。

 

7月11日の「反政府デモ」は、こうした国際情勢の変化を前に、米国が反転攻勢に出たものであった。

4月に開かれた第8回共産党大会ではラウル・カストロ第1書記が辞任し、指導部はディアス・カネル大統領ら革命を知らない世代の手に移った。世界のメディアはこれを「カストロ時代の終焉」と伝えたが、そうではなく、フィデル・カストロが提起し、「歴史的革命世代」により維持されてきた「21世紀にふさわしい、キューバらしい社会体制」の理念を、革命後世代が継承し、その実現に全力を捧げることを明らかにした党大会であった。

 

この点とも関連するが、キューバについて考える際にカギになるのは、キューバは社会主義を掲げているが、それは一般に考えられている社会主義とはまったく異なるものだということである。むしろ、「社会正義主義」とも言えるもので、「人間的でキューバらしい社会体制」とはいかなるものかについて模索し続け、ようやくたどり着いた「社会体制のあり方」を「社会主義」と呼んでいるのである。「初めに社会主義イデオロギーありき」ではない。今、キューバではこの理念に沿って政治経済社会体制の転換が進められている。

 

しかし、部分的経済自由化が進むとともに所得格差が拡大し、人種差別意識が頭をもたげるなど、矛盾も起きている。お金がすべて、という人々も現れており、「人心を変える」米国の政策が効を奏する素地が生まれている。若い指導者たちは、十分に予想していたとはいえ、早くも厳しい試練に直面している。